車載に向けた鉛フリーハンダ実装の高信頼性化

1. はじめに

欧州の特定物質使用禁止指令(RoHS指令)施行を2006年7月に控え、現在、鉛フリーハンダへの移行が急ピッチで進められています。そして、Sn-3.0Ag-0.5Cu系ハンダ(以下SACと略)が代表的な鉛フリーハンダとして、民生機器等ですでに多くのメーカーで採用されてきています。

SACハンダの機械特性は従来のSn-Pb系ハンダと大きく異なります。鉛フリー代替初期の頃は、SACはクリープ強度が高く、これが接合信頼性に有効であると言われたことがありました。しかし、多くのユーザーが採用のための信頼性テストを行い、実際に製品に使用され、市場データがそろってくると、その耐久性に対して不安視する声が出始めました。SACは現在までにクラックの進行速度が速いことがわかっています。

自動車関連でも例外はあるものの確実に鉛フリー化は進んでいます。車載機器や産業機器関連では合金組織変更による強度特性の変化による対応に加え、製品信頼性の長期維持が大きな課題となっています。

弊社は、ソルダペースト、ポストフラックス、ヤニ入りハンダなどのハンダ付け電子材料を提供しているメーカーです。Sn-Pbハンダの時代から長年にわたり車載機器メーカー様と共同で、厳しい環境にさらされる車載機器用ハンダの高信頼性化について取り組んできました。今回は、このような車載機器用ハンダの鉛フリー化について弊社の取り組みを紹介いたします。

図1 クラック発生事例

2. 車載機器について

車載電子機器としては、カーオーディオやカーナビの他、エンジン制御やパワーウィンドウ、最近ではETCなどさまざまな部位に電子機器が使用されています。車載実装用ハンダ実装ではさまざまな地域で使用されることを考慮し、過酷な温度、湿度で使われることを想定した環境試験が行われます。環境試験の例としては高温〜低温の繰り返し試験(熱サイクル試験;Heat Cycle Test)や高温高湿試験などの試験が行われます。特にエンジンルームなど雨滴にさらされる厳しい環境で、かつ故障が人命にかかわる重要な箇所に対して自動車メーカーから要求されている熱サイクル耐性は非常に厳しい条件となっています。

図2 車載電子機器

3. 熱疲労によるクラック発生メカニズム

熱疲労によるハンダクラックの発生は次のように考えられています。

3216チップ抵抗を-40~+125℃の熱サイクルにかける場合を想定します。低温側(-40℃)を基準とした場合、+125℃までは165℃の温度差となります。

部品と基板の熱変位(Δl)は部品と基板の熱膨張係数差(Δα)と温度差(ΔT)とパッケージのサイズ(l)の積となります。

Δl=Δα×ΔT×l

この例では3.7μmの熱変位(ずれ)を部品と基板の間のハンダが吸収しなければなりません。このずれはせん断力として働き、繰り返しせん断が起こることにより金属疲労が促進され、ハンダにクラックが生じることとなります。大きな部品であればあるほど、また、基板と部品の熱膨張係数差があるものほどハンダへの応力負荷がかかりやすくなり、ハンダクラックへとつながります。

実際にはこの熱変位の他、ハンダ合金の熱による結晶状態変化も起こるため、ハンダの疲労寿命予測は難しいものとなっています

図3 クラック発生メカニズム

4. 車載実装を想定したハンダ材料の選定

現在一般用ハンダとしてSACが実用化されていますが、車載電子機器という分野では前述のように機械的特性や熱疲労特性に多くの懸念される点があります。

このSACに対して特殊金属を添加して耐久性をもたせた高耐久合金というハンダ材料の研究がすすめられています。高耐久合金は主にSACに微量元素を添加して強度や応力吸収作用をもたせてあるものです。

弊社では高耐久合金としてS3XNI合金というものを提案しています。これは従来のSACの組成にNiとInを微量添加した組成です。弊社が高耐久合金の候補としてこの合金を選定した理由は3つあります。

第一に、SAC組成からあまりはずれないものであるということです。現在の鉛フリー化の流れはほとんどがSACであり、市場データもそろってきて、実績も持っています。ここから全く違う組成のものの検討となると、SACで積み重ねた設計や信頼性等のデータがやり直しになり、無駄になってしまう可能性があるからです。S3XNI合金はSACベースの合金組成であるため、SACとほぼ同等の取り扱いができるという点でメリットがあります。

第二の理由は添加元素が一般的で有害性のないものであるということです。添加元素として、いくら特性が良くても有害なものであっては当然環境対応型の鉛フリーハンダとしては成り立たなくなってしまいます。また、使用されるユーザーにとって未知の金属を使用する場合、その信頼性等に不安を残すこととなる可能性があります。この合金では、ハンダ業界でも一般的に認識度の高いニッケル(Ni)とインジウム(In)を添加金属として採用しています。Niはメッキ等に使用されており、古くからハンダ付けと密接な関係を持つ金属です。Inは現在、ITO(Indium Tin Oxide:液晶パネルに使用)等で需要が増えてきており、埋蔵量も少ないため高価な金属ですが、添加量が少ないため、影響は少ないものだと思っています。また、インジウムを使用したSnAgBiIn系ハンダは世界初の鉛フリーハンダ使用量産製品であるポータブルMD(松下電器産業)に使用されたということもあり、金属自体の市場での実績は十分にあります。

第三の理由は、元素添加量が微量であるという点です。これは第一の理由とも関係することになりますが耐久性を持たせられるだけの最小限の添加量にして耐久性以外の特性をSACと同等にしたいというねらいがあります。これらはあくまでも合金のメインはSAC、耐久性の面で補助的な役割を果たすものが添加元素、という考え方に基づいています。

今回提案する高耐久合金はSACとほぼ同等の取り扱いができ、そのままのライン構成・プロファイル・システムでスムーズに移行できるメリットがあります。

図4 高耐久合金の添加金属

5. SACのクラック発生事例と高耐久合金の効果

図5に-40~125℃1000サイクル後の3216Rチップの断面写真を示します。SACがフィレット部およびチップ裏に大きなクラックが入っているのに対して高耐久合金は若干のひずみがあるもののクラックの発生は抑止されています。このように1000サイクルでは明らかに高耐久性合金に優位性があることが確認されています。

図6に3000サイクルまでの断面写真を示します。SACは約2000サイクルで完全に破断し、導通不良の状態となっています。それに対して高耐久合金S3XNIを使用したソルダペーストの接合状態は3000サイクル経過後、クラックが進行してはいますが導通不良となる破断までは至っていません。

図5 熱サイクル試験後の3216Rチップの断面写真(1000サイクル後)
(a): SAC
(b): 高耐久合金

6. 高耐久合金対応フラックス開発

高耐久合金をソルダペーストの形にした場合、添加金属の影響でペースト特性が変化する可能性があります。

S3XNI合金ではNiとInを添加元素として採用しています。これらの添加金属は合金自体の接合耐久性に対して非常に大きなプラス効果をもたらすものの、ハンダペーストとして扱った場合マイナスとなる点も併せ持っています。

最適な活性剤を選定し、フラックス組成を調整することで、ぬれ性や保存時安定性(シェルフライフ)がよく、印刷時の粘度変化も抑えるフラックスを提供できるようになりました。

図6 熱サイクルによる断面変化

図7 印刷ローリング時の粘度変化

図8 S3XNI合金のはんだ付け性

図9 熱サイクル試験後のフラックス残渣写真
(1000サイクル後)
(c):一般品
(d):クラックレス対応品

7. 車載機器用高信頼性フラックス

車載機器に使用されるフラックスは、高温高湿雰囲気や結露発生時での絶縁信頼性の確保が必要です。このような用途に応じるため冷熱サイクルでフラックス残渣にクラックが発生しない「残渣クラックレスフラックス」を提案しています。

残渣クラックレスは残渣クラックから浸入する水分によるマイグレーションの発生の抑止、また、剥がれ落ちた残渣がスイッチ等に侵入し、接触不良を引き起こすことを防ぐ効果もあります。クラックレス残渣はこれらの抑止効果だけでなくコーティング効果も有しています。こういったクラックレス残渣をもつフラックスの開発は非常に困難な物となります。ハンダ付けに使用されるフラックスにはロジンが含まれています。ロジンは古くからハンダ付けに使用されてきた材料で、酸価(濡れ性に関与する)を持ちつつ絶縁性をもつというきわめて特異で、ハンダ付け用フラックスに最適な機能を持っています。その反面、硬くてもろいためにフラックス残渣にクラックが入りやすいという欠点も併せ持ちます。残渣のクラックレス化は、ロジンの脆弱性を改質することから始まります。ロジンの比率を減らし、可塑性を持たせるような添加剤を添加します。そのためにはロジンが減った分の濡れ性を補うだけの活性剤を(電気的信頼性を損なわない程度に抑えて)添加しなければなりません。

このように低温で残渣が割れず、高温で変質しないような可塑剤の成分・配合等を調整したフラックスとハンダ粉を混合しペースト化した物が「クラックレスソルダペースト」となります。

8. おわりに

以上、高耐久合金S3XNIと、それを使用したソルダペースト開発の事例を解説してきました。

SACは鉛フリーとして優れた合金であるためにSACベースの場合、SACの良い特性を損なわないように添加金属の選定をしていく必要がありました。今後は、さらなる合金の信頼性向上を考える際にはSACの枠からはずれた高耐久合金を検討していく必要もあるかと思われます。

車載をはじめとするあらゆる電子機器の信頼性確保は電子材料メーカーとしての使命であります。今後も合金・フラックス両面から信頼性確保について努めていきたいと考えています。

また、本合金組成を使用したソルダペーストをラインアップしております。特徴は下記のようになります。

  • S3XNI58-M650-3・・・大気リフロー対応・完全無ハライドタイプ
  • S3XNI58-N200K・・・・・クラックレスタイプ(N2用)

詳細につきましては弊社営業までお問い合わせ下さい。

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