高濡れやに入りはんだの開発

はじめに

電気・電子製品には多く機能が盛り込まれ、様々な多種多様な電子部品により構成されている。 これらは、使用材料の低コスト化、製造の効率化によるコスト削減により製品価格を抑え、手頃な価格で消費者へ提供することで爆発的な普及がなされる。 スマートフォンはその代表である。製造の効率化を図ることはコスト削減の観点から重要だが、省エネルギーの点でも重要なテーマである。

現在の電子部品の実装技術は、SMT(Surface Mount Technology)がメインであり、はんだ付け材料はソルダーペーストが主流となっている。 ただし、コネクタや大型の電解コンデンサーなど、接合強度が必要な箇所にはフローはんだ付けやコテ先でのはんだ付けが併用されている。 よって、液体フラックスまたは、やに入りはんだも重要なはんだ材料としてニーズがある。 やに入りはんだのはんだ付け技術の一つであるスライドはんだ付けは、線径、こて先の大きさを選択することで、狭い箇所にあるコネクタの接合でも高い強度ではんだ付けできる有用な方法である。 ロボットによる自動化により、数十本単位で素早くはんだ付けができ、多くの生産工場で使用されている。 より速いスライド速度でのはんだ付けを実現するには、ブリッジを防ぐために、はんだの素早い切れが重要になってくる。 本稿では、この素早い切れを実現させ、生産タクトの短いはんだ付けができるやに入りはんだ72Mシリーズを製品化したので、紹介する。

1.スライドはんだ付けに適したフラックス設計

スライドはんだ付けは、門型のはんだこてを部品のリードにスライドさせながら、やに入りはんだをはんだこてに連続供給し、はんだ付けしてゆく工法であり、①部品加熱、②はんだ供給、③はんだの切れを連続的に行う。
1本ずつ行うショットはんだ付けは、手はんだ付けに近いが、スライドはんだ付けでは、上記①から③を極短時間で行うため、フラックス濡れ性の向上が必須である。 つまり、③素早いはんだの切れを実現するためには、スルホール(以下、TH)への素早い濡れと、表面張力確保のために、はんだ表面酸化の抑制が必要である。 また、②のはんだ供給が高温のはんだこてに連続的に行われることから、フラックスの酸化膜除去能力(以下、活性力)が熱劣化せずに持続する必要がある。 フラックスの構成成分は、ロジン等の樹脂と酸化膜除去の担う活性剤、具体的には有機酸やハロゲン化合物である。フラックスの素早い濡れ(即効性)と持続性を確保するために、後者の活性剤の新規探索を行った。 図1にその結果を示す。ベースのフラックスに各種活性剤を1種類ずつ適量添加し、試作フラックスとした。横軸は持続性、縦軸が濡れ性である。濡れ性が低下すると、速い速度ではんだが切れなかったり、ブリッジになったりする。 活性剤Aは、初期の濡れがよいものの、スライド回数を増やすと急激に濡れ性が低下し、持続性に乏しかった。活性剤Bは、スライド回数を増やしても活性力が持続するものの、スライドの初期において濡れが悪く、即効性に難があった。 活性剤Cでは、スライドの初期から濡れ性を示し、その持続性も高かった。試験開始初期から良好な濡れ性を示し、持続性も高い活性剤Cを選定した。


図1 活性剤の濡れ性と持続性


2.スライドはんだ付けの評価

スライドはんだ付けは、スライド速度とこて先温度をパラメータにして変化させ、ブリッジ有無とはんだ充填を評価した。 スライド速度が早いとはんだの切れが追い付かず、ブリッジが発生しやすくなる。また、こて先温度が低いとはんだの流動性が下がり、はんだ充填率の低下やブリッジ発生が起きる。 よって高速かつ低温1でのスライドはんだ付けが最も厳しい条件である。 試験条件として、基板にはOSP基板(FR-4, 厚さ1.6mm)を用い、φ1.0mmのTHにNi/Auめっきリード部品を挿入して試験片とした。 やに入りはんだの線径をφ0.5mmとし、スライド速度を6, 13mm/s, こて先温度を330, 350, 380℃として試験を行った。 図2,3にその結果を示す。

図2 ブリッジ個数比較




図3 スライド13mm/sでのTH充填外観


新規組成フラックス72Mでは、高速かつ低温でのスライドはんだ付けでもブリッジが大幅に低減されることが分かった。 また、部品側に赤目がなく、はんだの充填が十分であることがわかる。 このことから、72Mは高速スライド付けに好適なフラックスであることといえる。また、低いこて先温度でもブリッジが抑えられていることから、部品への熱ダメージ低減が期待できる。 図4にフラックス残渣の外観を示す。残渣の割れが少なく、かつ淡色となっている。これは、従来とは異なる成分配合を採用し、 かつ高活性な新規活性剤を使用することによって添加量の抑制が可能となったため実現できた。このことにより、外観検査における誤判定を抑制できる。 このように単に濡れ性を高めるだけでなく、外観検査性、さらには臭気低減にも配慮し、フラックスの最終組成を決定した。



図4 フィレット形状及び残渣外観(スライド速度:13mm/s、こて先温度:380℃)



3.信頼性

最も重要なフラックスの信頼性について述べる。 信頼性試験は主に、フラックス残渣の電気的絶縁性および腐食性の試験である。 特に濡れ性の確保のため、活性剤を過剰添加した場合には、絶縁値が低下したり、銅箔を腐食したりする懸念が増す。 絶縁値測定は、JIS規格(JIS Z 3197)によると、フラックスをIPAに溶解させ、JIS櫛形基板に塗布してディップはんだ付けすることにより、 試験片とするが、ここでは、やに入りはんだを直接に櫛形基板にはんだ付けし、実態に近い試験片とした。 図5に絶縁抵抗値の変化、試験後の櫛部の観察像を示す。環境条件は85℃85%RH、DC50V印加である。 1000時間に渡り1010Ω以上の高い絶縁抵抗値を示した。また、マイグレーションの発生は見られなかった。 なお、IPC TM-650 2.6.3.7の試験方法においても同様の結果が得られている(図6)。 銅板腐食についてもJIS法、IPC法いずれも腐食無しの結果であった(図7)。


EM試験結果(自社法 基板JIS櫛形基板)




図5 JISによる絶縁抵抗値推移及び櫛部




SIR試験結果(IPC TM-650 2.6.3.7)




図6 IPCによる絶縁抵抗値推移及び櫛部




図7 銅板腐食試験結果(JIS、IPC)



4 合金ラインナップ

S3X-72M(Sn 3.0Ag 0.5Cu)・・・高濡れやに入りはんだ

S01X7Ca (Sn0.1Ag0.7Cu0.03Co+α)・・・こて先食われ抑制・低Agやに入りはんだ

S03X7Ca (Sn0.3Ag0.7Cu0.03Co+α)・・・こて先食われ抑制・低Agやに入りはんだ

S1XBIG (Sn1.1Ag0.7Cu1.8Bi+Ni)・・・高耐久低Ag合金高濡れやに入りはんだ

SB6N (Sn3.5Ag0.5Bi6.0In)・・・高耐久合金やに入りはんだ

5 まとめ

・新規活性剤を使用より、濡れ性が飛躍的に向上

・ロボットでの作業効率が従来品より大幅に向上また、フラックス残渣色も非常に良好

・高い信頼性を確保(絶縁抵抗値、銅板腐食)

・多種のはんだ合金ラインナップを用意

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